中之島香雪美術館 「珠玉の村山コレクション」
第Ⅱ期展は、慎ましくも清らかな「美しき金に心をよせて」

レポート:アートエバンジェリスト 中山くる美

2018年3月21日(水・祝)に開館した中之島香雪美術館では、約1ヵ月間の第Ⅰ期展「美術を愛して」が終了。引き続き開館記念展「珠玉の村山コレクション」~愛し、守り、伝えた~、第Ⅱ期展「美しき金に心をよせて」4月28日(土)~6月24日(日)が開催されています。約2ヵ月間、前期・後期で入れ替えられる作品もあり、じっくり向き合いたい展覧会となりそうです。

エントランス前ロビー

エントランス前ロビー

会場入口

会場入口

展示室

展示室

世界最古の美術雑誌『國華』の
危機を救い、支え続けた、村山龍平の“金”の生かし方

第158回直木賞を受賞された門井慶喜氏の『天才たちの値段』『天才までの距離』という作品をご存知だろうか? AE Salonのwebサイトをご覧になられているアートを愛する方々なら、その表紙を見てジャケ買いされているかもしれません。その内容は、作品の真贋を舌で感じるという美術探偵・神永美有を中心に古今東西のアートや古美術の謎を解いていくというミステリー仕立て。その『天才たちの距離』の冒頭ストーリーに登場するのが岡倉天心。いわずと知れた明治美術界のプロデューサーであり、世話役であり、東京美術学校の創設者であり…まさに時代を牽引したアートモンスター。この物語では、『國華』がメインテーマにされている訳ではありませんが、その時代の京都や奈良の美術への関わりを詳細に調べたストーリー展開はなかなか興味深いものがあります。
そんな岡倉天心と官報局長であった高橋健三が創刊したのが豪華な月刊美術雑誌『國華』。古美術の存在と価値を周知させるため、精巧な図版と充実した論考を合わせ備え、明治22年10月28日に創刊。その超豪華な雑誌は定価1円…中堅サラリーマンの月給の5分の1を超えるほど高価なものでした。そんな高コストな豪華雑誌が商業的に成り立つはずもなく、その経営は間もなく匿名組合の出資で賄われるようになり、明治26年頃には上野理一氏とともに村山龍平が資金提供を行っていたようです。太平洋戦争敗戦時の中断を除いて順調に刊行を続ける『國華』は今、朝日新聞社の支援によって発行されています。
村山龍平記念室では、日本の文化・美術を愛し、『國華』を支援し続けた村山龍平の生涯をたどることができます。

『天才たちの値段』『天才までの距離』『注文の多い美術館』 門井慶喜、文春文庫

『天才たちの値段』『天才までの距離』『注文の多い美術館』 門井慶喜、文春文庫

『國華』

『國華』

村山龍平記念室『國華』表紙展示

村山龍平記念室『國華』表紙展示

村山龍平記念室 展示

村山龍平記念室 展示

“華美”の対極にある仏教美術
鷹揚な屏風や精巧な蒔絵のコレクション

展覧会場に入って迎えてくれるのは、図録の表紙にも採用されている「稚児大師像」(重要文化財、鎌倉時代、13世紀)。この可愛らしくも神々しい画は、弘法大師空海が幼少の頃、夢の中で諸仏と語り合ったとされるさまを描いたもの。他にも「普賢菩薩十羅刹女像(鎌倉時代、13世紀)、「大般若経」(平安~鎌倉時代、12~13世紀)など、“金”を清廉に用いた仏教美術が展示されています。
金碧障屏画にも優れたものが出展されています。第Ⅰ期展の紹介で写真を掲載した、長谷川等伯「柳橋水車図屏風」(重要美術品、桃山~江戸時代、16~17世紀)、「日月桐鳳凰・竹孔雀図屏風」(江戸時代、17世紀)など、背景に“金”を敷き表情豊かに描かれた屏風には迫力すら感じます。
また、村山龍平は蒔絵の蒐集にも心をよせたようで、原羊遊斎「菊蒔絵大棗」(江戸時代、1817年)、松島蒔絵硯箱(江戸~明治時代、19世紀)などの秀逸なコレクション。さらには、伝統的な蒔絵技術の工人育成と海外輸出を目的に明治26年に大阪で設立された日本蒔絵合資会社との関わりも深かったとのこと。「浪草花蒔絵文台・料紙箱・硯箱」(明治29年)は、同社の貴重な作例の一つ。日本蒔絵合資会社には、現在まで残されている日記帳があります。そこには、村山龍平が菓子器や卓などを購入した記録もあり、同社製の作品が村山コレクションの中で眠っている可能性も…。それは、また今後の調査・研究のお楽しみということでしょうか。

重要文化財 「稚児大師像」 (鎌倉時代、13世紀)

重要文化財 「稚児大師像」 (鎌倉時代、13世紀)

原羊遊斎 「菊蒔絵大棗」 (江戸時代 文化14・1817年)

原羊遊斎 「菊蒔絵大棗」 (江戸時代 文化14・1817年)

「浪草花蒔絵文台・料紙箱・硯箱」(明治29年)の展示

「浪草花蒔絵文台・料紙箱・硯箱」(明治29年)の展示

日本美術のスーパースターも多彩に
高透過ガラスを通して窺える秀逸な保存状態

前述した桃山時代の絵師・長谷川等伯や江戸時代の蒔絵師・原羊遊斎をはじめ、江戸時代の陶工・野々村仁清、狩野派の2代目で室町時代の絵師・狩野元信etc. 室町時代から江戸時代の日本美術を代表するスーパースターの作品も数多く展示された第Ⅱ期展「美しき金に心をよせて」。“金”という色が、素材が、いかに日本の宗教・文化・美術・生活に親しまれ、憧憬の対象であったかということがよくわかります。
「無量義経・徳行品」(平安〜鎌倉時代、12〜13世紀)は、“金”の界線を引いて経文を墨書し、その料紙に金銀の切箔や砂子を散らした装飾経。コレクションの中でも古い時代のものであるにも関わらず、その保存状態は素晴らしく、あまり開かれることがなかったためか、銀の酸化もほとんどなく、法華経も明確に確認できます。
岩佐又兵衛とその工房によって制作された「堀江物語絵巻」(江戸時代、17世紀)、「レパント戦闘図・世界地図屏風」(江戸時代、17世紀)の2作については、その色鮮やかな画面に驚きました。その保存状態のよさもさることながら、低反射加工を施した超高透過ガラス、LED照明によって美しく表出されているようです。特に、「レパント戦闘図・世界地図屏風」は神戸市立博物館の2012年開催の「南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎」展をはじめ、何度か観た作品ですが、明らかに一皮剥けた感が。これから観る作品についても、いっそう詳らかに魅せてくれるものともおおいに期待してしまいます。

重要美術品 長谷川等伯「柳橋水車図屏風」(桃山〜江戸時代 16〜17世紀)の展示

重要美術品 長谷川等伯「柳橋水車図屏風」(桃山〜江戸時代 16〜17世紀)の展示

岩佐又兵衛 「堀江物語絵巻」(江戸時代、17世紀)の展示

岩佐又兵衛 「堀江物語絵巻」(江戸時代、17世紀)の展示

野々村仁清 「色絵花唐草文鱗形香合」 (江戸時代、17世紀)

野々村仁清 「色絵花唐草文鱗形香合」 (江戸時代、17世紀)

「レパント戦闘図・世界地図屏風」(江戸時代、17世紀)右隻・左隻

「レパント戦闘図・世界地図屏風」(江戸時代、17世紀)右隻・左隻

「金は出すが、口は出さない」姿勢を貫いた
もうひとつの“金”、それが美術雑誌『國華』

美術雑誌『國華』の経営に関わったことは、村山龍平の美術理解を深め、コレクション蒐集に寄与したことでしょう。その中には、潤沢に“金”を使いながらも、村山龍平らしく慎ましくも清らかな作品が数多集められ、こうして私たちの心の琴線に訴えてきます。「金は出すが、口は出さない」姿勢を貫いた美術雑誌『國華』は、今も刊行され続けるロングセラー月刊誌であり、世界でも稀有な存在。バックナンバーには現在失われた作品や所在不明のものも掲載されている、研究者にとっても貴重な資料となっています。村山龍平が執心したもうひとつの“金”、それが美術雑誌『國華』といえるかもしれません。

村山龍平記念室 展示

村山龍平記念室 展示


Ⅱ 美しき金に心をよせて2018年4月28日(土)~6月24日(日)

中島香雪美術館開館記念展
「珠玉の村山コレクション」~愛し、守り、伝えた~
  • 会期/(Ⅰ期~Ⅴ期) 2018年3月21日(水・祝)~2019年2月11日(月・祝)
  • 開館時間/10:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 休館日/月曜日(祝日の場合は翌火曜日、5月1日は開館)、年末年始
    • 展示替えなどによる臨時休業あり
  • 料金/一般900(700)円、大高生600(350)円、小中生200(100)円
    • カッコ内は前売り(一般のみ)・20名以上団体料金
  • 主催/公益財団法人 香雪美術館、朝日新聞社、朝日放送テレビ
<アクセス>

〒530-0005 大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルターワー・ウエスト 4F
tel:06-6210-3766
http://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/

  • JR「大阪」駅桜橋口より徒歩11分
  • JR東西線「北新地」駅より徒歩8分
  • 地下鉄四つ橋線「肥後橋」駅、京阪中之島線「渡辺橋」駅と直結
  • 地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅より徒歩6分