レポート:アートエバンジェリスト 中山くる美

2018年2月「大阪で開催される『よりそうかたち』展覧会に関する取材依頼のメールが届いた」という連絡をAE-Salon事務局の中尾さんからいただきました。関西在住でありながら、この展覧会のことも、主催のブレーカープロジェクトのことも存じ上げませんでしたが、せっかくお声かけいただいたので「とにかく展覧会を観に行こう!」と、未知なる西成区山王へ足を踏み入れました。

変わりゆく西成とともに15年。
その潜在能力を抽出…人、まちを繋ぐアートの可能性。

「じゃりン子チエ」でおなじみ、大阪でもひときわディープな雰囲気漂う西成界隈。昭和のドヤ街は外国人観光客であふれ、新世界は串カツやホルモン焼きなどのB級グルメを求める人々で賑わう。さらにはJR「新今宮」の駅前に星野リゾートのホテルが開業するなんて「ほんまかいな!?」のビックリニュースも。そんなこんなで西成周辺は今、激変の只中にあるのです。
そんな西成をベースに大阪市の文化事業として2003年にスタートしたのがブローカープロジェクト。当初は浪速区の新世界、現在は西成区の山王地区を活動拠点とし、アートと地域を繋いでいく、地域密着型のプロジェクトを展開されています。現代の美術家や音楽家たちとまちの中に創造の現場を生み出し、さまざまな化学反応が起こることに心躍らせながら、その活動は15年も続いているのです。

ブレーカープロジェクトを牽引する
雨森 信(あめのもり のぶ)さん。

その仕掛け人がブレーカープロジェクトのディレクター雨森 信さん。現代芸術祭プログラムの一環として、地域密着型のアートプロジェクトを大阪市に提案。2003年より市主催の事業として、地域と繋がり、成果を積み上げ、15年の長きにわたり、さまざまなアーティストとともに活動をカタチにされてきた、その名の通り“信”念の人(だと思う)。現在、雨森 信さんは、ブレーカープロジェクトディレクターという肩書きの他に、大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員として、長きにわたる地域での実践をもとに芸術文化と社会の関わりやアジアにおけるアートマネジメントについての調査研究もされています。机上では得られない、地域と繋がりながらの深い知識と経験を若い世代に伝え、その若いエネルギーがまた地域にフィードバックされていく…そんな役割を担われるにふさわしい方であると感じました。

 ブレーカープロジェクトのディレクター 雨森 信さん(撮影:仲川 あい)

ブレーカープロジェクトのディレクター 雨森 信さん(撮影:仲川 あい)

美術家・青田真也氏が西成界隈のリサーチをもとに
新作発表した『よりそうかたち』展覧会。

ブレーカープロジェクトの創造活動拠点<新・福寿荘>は築60年以上経つ木造アパート。元居住空間という特性を生かしたアーティスト・イン・レジデンス事業として、美術家・青田真也氏を迎えてプロジェクトがスタートしたのが2016年。青田氏は、事務局メンバーである松尾由美子さんや高岩みのりさんとともに、さまざまな場所に足を運び、ものづくりのために使われている道具や培われてきた技術、作業の痕跡、副産物などに着目し、リサーチを重ねてきました。そして、それらを青田氏独自の視点で捉えなおして作品へと昇華し、地域の酒店倉庫をリノベーションした会場に展示されたのが本展『よりそうかたち』です。
山王地区の住宅街の中に溶け込む会場は、ブレーカープロジェクトメンバーの他、学生ボランティアや地域に暮らす元左官職人のおじさんらの協力も得て大掃除され、倉庫の面影を残しつつ、展覧会場として設えられた空間。1Fと2Fに、それぞれ13点が展示されています。欄間職人さんの使い込まれた砥石であったり、革靴のパーツを糊付けするときに下敷きとして使用する台紙、ニスをかき混ぜる棒だったり…西成地区で出会った興味深いものたちが2Fに。そして、青田氏の感性で収集されたものが、さらに別のつくり手によって異なる素材で転換された作品が1Fに。2Fで配布される会場案内図を見るとその全体像がわかる仕掛けとなっています。また1Fの奥では、青田氏自身で撮影したリアルな作業風景の映像が流れるという3段仕立て。
作品としての完成度の高さや美しさに加えて、地域に埋もれた価値を掘り起こすという過程も含めてコックリと納得のいく、2年間の成果を充分に感じられる展覧会でした。

『よりそうかたち』展覧会の入口(撮影:来田 猛)

『よりそうかたち』展覧会の入口(撮影:来田 猛)

『よりそうかたち』展覧会の1F展示室(撮影:来田 猛)

『よりそうかたち』展覧会の1F展示室(撮影:来田 猛)

『よりそうかたち』展覧会の2F展示室(撮影:来田 猛)

『よりそうかたち』展覧会の2F展示室(撮影:来田 猛)

ペンキの製造過程で、調色する際に試し塗りをして色見本と見比べるためのブリキ板(撮影:来田 猛)

ペンキの製造過程で、調色する際に試し塗りをして色見本と見比べるためのブリキ板(撮影:来田 猛)

試し塗りのブリキ板から着想を得て生まれたテキスタイル(撮影:来田 猛)

試し塗りのブリキ板から着想を得て生まれたテキスタイル(撮影:来田 猛)

<美術家・青田真也 プロフィール>

1982年大阪生まれ。愛知県在住。2006年京都精華大学芸術学部造形学科版画専攻卒業。2008年愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。身近な日用品や大量生産品、空間の表面やカタチをヤスリで削り落とし、見慣れた表層を奪い去ることで、それらの本質や価値を見直す作品を制作。

近年の個展

2017「Solo Exhibition」Hebel_121(スイス・バーゼル)
2015「A.B」Utrecht/NOW IDeA(東京) など

近年のグループ展

2014「日常/オフレコ」神奈川芸術劇場(神奈川)
2012「Continuous Art, Impossible Community」Seoul Art Space GEUMCHEON(韓国) など

  • 期 間:2018年3月8日(木)~25日(日)
    • 開場:木~日13:00~19:00 *3/21(水・祝)はオープン
  • 会 場:酒店倉庫(〒557-0001 大阪市西成区山王1-12-4)

歩いて1分、kioku手芸館「たんす」では、
ファッションブランドの「NISHINARI YOSHIO」第一弾コレクションの展示も。

酒店倉庫の会場から歩いて約1分の場所に、元タンス店を清掃・改装、2012年12月にオープンしたkioku手芸館「たんす」があります。こちらでもブレーカープロジェクト実行委員会主催の「NISHINARI YOSHIO」展覧会が開催されていました。それは美術家・西尾美也(にしおよしなり)が、地域の女性たちと共同で立ち上げたファッションブランド。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目し、さまざまな地域で活動してきた西尾氏が、kioku手芸館「たんす」に集まる地域の人々とともに行った服づくりのワークショップを経て生まれた個性豊かなファッションストーリー。2FでSHOPをオープンし、「NISHINARI YOSHIO」ブランドの服を展示・販売。1Fは地域の方々の創作の場であり、ここでつくられたオリジナルプロダクトとして、アクセサリーなどの小物が販売されています。
このkioku手芸館「たんす」という場所は、ふだんはアーティストと地域の人たちがともにものづくりを行う場として週1回オープンし、地域の創造活動拠点として運営されているようです。

kioku手芸館「たんす」

kioku手芸館「たんす」

  • 2018年2月24日(土)~3月25日(日) *月~水休館  13:00-19:00
    • 3/21(水・祝)はオープンしています。
  • 会 場:kioku手芸館「たんす」(山王1-11-5/元鈴木タンス店)

クリエイティブの現場から現代社会と会話する、
ブレーカープロジェクトが明日へ繋ぐ“まち”のカタチ。

大阪市現代芸術創造事業として15年継続されてきたブローカープロジェクト。これからも長く続けていくためのポイントとは…「空き家や空店舗、廃校などを創造の場とすることで、地域の活性化やそこに暮らす人々の意識が変化することに可能性を感じている」とディレクターの雨森さん。そこにある記憶を残しながらアートを創造する、クリエイティブの現場に立ち会うことが大好きで、そのために精力的に活動すること、思考することを厭わない姿勢には感動を覚えます。ここから生まれたアートやアーティストが、アーカイブとして尊重されていく…その結果だけでなく、その過程に遭遇することを楽しむ人々によって、さらに盛り上げていってほしいと心から思う。そう、これからも変わりゆく西成界隈、そこに根をはるブレーカープロジェクトの活動から目が離せません♪

酒店倉庫の2Fの窓から酒店倉庫の2Fの窓からは、西成区山王の街並~あべのハルカスのビルまでが一望できる、昭和と21世紀が交錯する、今ここにしかない世界が広がる

Breaker Project

ブレーカープロジェクト実行委員会
〒557-0001 大阪府大阪市西成区山王1-5-31 新・福寿荘内
TEL:070-5046-8667
【ディレクター】雨森信
【事務局】松尾真由子
http://breakerproject.net